英国CROの視点:グローバル成功に向けた治験計画
グローバル展開を目指す製薬企業にとって、米国とEU/英国市場への同時参入は自然な次のステップに思われます。
しかし、一方の地域での成功が、もう一方での成功を保証するわけではありません。
規制当局は大枠の原則を共有していますが、米国・EU・英国はそれぞれ異なる制度のもとで運営され、
臨床エビデンス、タイムライン、商業化準備における期待値も異なります。
英国に拠点を置くCROとして、私たちはスポンサーがこうした違いを見越した試験設計と実施を支援します。
臨床開発プログラムは単に規制要件を満たすだけでは不十分であり、
「適切な市場に、適切な時期に、適切なデータを届ける」ことが重要です。
規制調和は依然として目標ですが、実際の製品上市には地域ごとの戦略が不可欠です。
米国ローンチ:スピード・規模・リアルワールドエビデンス
米国は依然として世界最大かつ最も商業的に魅力的な市場です。
FDAが主導する規制枠組みには、NDAやBLAといった明確な承認ルートがあります。
FDAは有効性と安全性を強く重視すると同時に、Fast Trackなどの迅速承認制度を活用し、
高いアンメットニーズ分野での上市を加速させます。
承認後もリアルワールドエビデンスや市販後調査を通じて収益化を開始できる柔軟性があります。
米国を狙うスポンサーが重視すべき点:
- 早期のFDAエンゲージメント(エンドポイント・試験デザインの合意形成)
- ピボタル試験による堅牢な有効性・安全性データ
- 市販後普及を後押しするリアルワールドエビデンス戦略
- デジタルヘルスデータやアウトカム活用によるペイヤー対話の強化
EUローンチ:規制の厳格さと償還の複雑さ
EUではEMAが中央承認ルートを提供する一方、
患者アクセスは加盟国ごとのHTA(医療技術評価)、価格交渉、償還判断に委ねられています。
2025年1月から発効したEU HTA規則(2021/2282)は、JCA(合同臨床評価)を導入し、
加盟国間での評価調和を目指しています。
ただし、最終判断は依然として各国に委ねられます。
国別の特徴例:
- ドイツ:比較有効性データや経済モデルを重視
- フランス:リアルワールドアウトカムやQOL指標を評価
- スペイン:予算影響分析や流通網の整備を重視
重要要素:
- ローカル標準治療を反映した比較薬の選定
- 各国評価に沿った患者報告アウトカム
- 地域ごとの償還を裏付けるサブグループ解析
- 国別言語・要件を反映したバリュードシエ作成
英国治験:独立かつグローバル関連性の高いゲートウェイ
EU離脱後、英国は独自の規制環境を持ちつつも、科学的にはEMAやFDAと整合しています。
英国の利点:
- EUより俊敏な迅速承認タイムライン
- NHSを活用した効率的なリクルートと長期追跡
- 電子カルテやリンクデータを用いたリアルワールドデータアクセス
- 早期・アダプティブ試験デザインに適した環境
特にILAP制度は、迅速承認と早期アクセスを可能にし、NICEも開発初期段階から関与するため、価値主張やエビデンス設計に影響を与えます。
戦略的含意:3つの制度=3つのマインドセット
米国:
- 全国一括ローンチ
- 市販後のRWE活用で市場地位を強化
- スピードによる先行者優位性
EU:
- 償還確保が市場普及の前提
- 国ごとに異なるHTA・価格交渉
- ローカライズされたエビデンス必須
英国:
- 独立した制度ながらグローバル整合性あり
- 効率的な規制経路と統合医療システム
- コスト効果やRWEが重視される
スポンサーが初期に行うべきこと
- グローバル対応の試験設計:FDA・EMA・MHRA・HTAを意識したエンドポイント設定
- 並行的な規制戦略:並行して各当局と交渉、共通データパッケージを整備しつつ地域差を吸収
- 市場アクセスを見据えた試験設計:価格・償還に耐えうる比較薬選定やリソース使用データを収集
- ローカル対応の徹底:国別のバリュードシエ・KOLや患者団体との早期連携
グローバル上市を支える治験設計
私たちRichmond Pharmacologyは、英国CROとして、プロトコル設計からデータ提出まで、
規制承認と市場アクセスを加速させる柔軟かつ厳格な試験運営を提供しています。
安全性・有効性だけでなく、戦略的に「ポジショニングされた治験」がグローバル成功の第一歩です。
著者
Dr. Lisa Campbell
Director of Regulatory Strategy, Richmond Pharmacology
Campbell医師はRichmond Pharmacologyにて規制戦略を統括し、
MHRA・EMA・FDAとの早期協議を通じて治験デザインを規制要件および市場アクセス要件に適合させています。
20年以上にわたり、グローバル製薬企業とCROの双方で経験を積んでおり、
治験プログラムが法域ごとにどのように適応すべきかを深く理解しています。
特に、地域的な複雑性を見越した規制ロードマップ設計を専門とし、
スポンサーがより迅速かつ明確に承認を得られるよう支援しています。